ジュゴンのフンが語ること

ジュゴンのフンに関する質問
4月14日に行われたSDCCによる防衛省・環境省の担当者との要請交渉。論点の一つは、2022年7月に辺野古基地建設現場の南約2kmで発見され、沖縄県自然保護課が2023年4月初旬に発表した報告書で初めて公表されたジュゴンのフンについてだった。ただ私たちの質問に対する両省庁の回答の多くは満足できるのもではなかった。(SDCCの報告はこちらから

省庁交渉にむけて準備するSDCCのメンバーとジュゴンのダグ
ダグは米国のジョージタウン大学の学生らによって作成されている

防衛省の担当者は「フンが見つかったことは承知しており、辺野古の基地建設に関する環境監視等委員会にフンの問題を審議事項として提案するかどうか検討している」と繰り返した。環境省の担当者は「フンが見つかったことは、沖縄本島東海岸にジュゴンがいることを証明するものであり、喜ばしいことだ」と述べるにとどまった。しかし両省庁とも、沖縄のジュゴンを保護するために、フンや県の報告書を検討し取り組む、とまでは明言しなかった。

ただこのような不満足な回答も2つの点では理解できる。まず沖縄県のジュゴン報告書は要請交渉の1週間前に発表された。そして、SDCCが交渉の2週間前に両省庁に提出した質問には、ジュゴンのフンに関する質問は含まれていなかった。以下、今回の省庁交渉を踏まえて3点に言及したい。

幸運なジュゴン=観察力と知識のある目と行動力あるSUPボーダー
今回のジュゴンのフンについては、沖縄のマスコミの報道や沖縄県の報告書では、スタンドアップパドル(SUP)ボーダーが発見した、と簡単に説明されている。しかし、このSUPボーダーがいたことが、沖縄のジュゴンとジュゴン保護に取組む私たちにとって、どれほど幸運なことであったか認識することは大切だ。 

このSUPボーダーは、ジュゴンのフンがどのようなものかを知っており、沖縄のジュゴンの置かれた厳しい状況を理解していた。そして、ジュゴンのフンを海からすくい上げ、関係機関に連絡し、分析してもらうという行動にでたのだ。

このSUPボーダーの観察力と知識と行動力がなければ、私たちはまだ、辺野古・大浦湾周辺からジュゴンが追い払われてしまった、との認識を持っていただろう。その意味で、沖縄のジュゴンと私たちは幸運だといえる。それは同時に、基地建設地周辺の沖縄ジュゴンを監視している沖縄防衛局の姿勢と能力を再度追求することの必要性にも繋がっていく。

名護市久志のウガン島 
この近辺でジュゴンのフンは発見された

沖縄防衛局と環境監視等委員会の姿勢と能力を追求し続けよ
防衛省との要請交渉では、他の環境・市民団体のように、SDCCも、沖縄防衛局の工事の中止とジュゴンのフンが発見された久志地区での徹底調査を求めた。 しかしそれ以上に私たちは、ジュゴンを監視する沖縄防衛局やジュゴンに関する助言を行う環境監視等委員会の姿勢と能力を追求することに時間を費やした。

私たちが長年にわたって目の当たりにしてきたのは、適切な環境アセスを実施せず、重要な情報を公開しない沖縄防衛局であり、そして、沖縄本島周辺のジュゴンは絶滅しているという疑問のある見解を示してきたメンバーがいる環境監視等委員会だ。私たちは、防衛局の調査チームと環境監視等委員会は、沖縄のジュゴンを苦境に追いやっている要因の一部だと考えている。 

要請交渉で私たちは、防衛省の担当者に対して、米国のジュゴン訴訟で提出された、米国国防総省が委託して作成させたWelch 2010という報告書を紹介した。そしてその中で、沖縄防衛局の環境アセスの調査がどのように国防総省により問題視されていたかを、以下の引用文の和訳を読み上げて示した。

「環境アセスのために行われた調査(沖縄防衛局2009年)は、観察者の経験や特定の調査方法の適合性に疑問があるため、ここではほとんど価値を持たない。調査は個体群の状態を定量的な測定が行われていない。そのような調査グラムなしでは、普天間代替施設建設 の潜在的な悪影響を評価し、適切な緩和策を策定し、緩和策の成否を評価することは困難か、不可能であろう。」 [p95].


この国防総省の批判を踏まえて、私たちは防衛省の担当者に対して、現在のジュゴン調査の調査員がどのような調査訓練を受け、どのような資格を持っているのか質問した。ただ、防衛省の担当者は、私たちの質問をかわすだけだった。

また私たちは、沖縄防衛局と防衛省が、防衛省が諮問した専門家がジュゴンの鳴き声とみなす音の録音を公開していないことを改めて批判した。 

そしてさらに、国際自然保護連合(IUCN)の海牛類専門家グループ(SSG)が、環境監視等委員会のメンバーが執筆し、Scientific Reportsに投稿した沖縄のジュゴンは絶滅したと主張する論文のドラフトをどう評価しているかを改めて説明した。 SSGは2021年5月、この論文について沖縄県庁に書簡を送付しているが、その書簡の一部を読みあげた。  

「私共海牛類専門家グループは、ジュゴンとマナティーの保護に関して科学的な助言をすることを任務として、国際自然保護連合(IUCN)のもとに置かれた組織であります。 このたび、沖縄のジュゴンが絶滅したとする原氏らによる論文が科学雑誌 Scientific Reportsに投稿され、その事前刷りが我々の目に留まりました。この論文は現在校閲 の過程にあり、現段階では出版されるか否かは未定であります。

この手紙の意図は、仮にこの論文が校閲を通過して出版されたとしても、沖縄のジュ ゴンが絶滅したとするその主張は全く信頼に値しないことをお知らせすることでありま す。2019 年 12 月に IUCN は南西諸島のジュゴン個体群を「深刻な危機 Critically Endangered」の状態にあると判定しました。その根拠は次の文献に示されています。」


2022年4月、同論文の大幅な修正版がScientific Reportsに掲載されたが、SSGの書簡の内容は、ここ2年間の沖縄本島北部沿岸でのジュゴンの食痕やジュゴンのフンの発見という証拠をもって(沖縄県の報告書を参照)、改めてその正当性が確認されたといえる。沖縄県の報告書は、ジュゴンが生存していること、そして保護区の設定など有効な保護対策が必要であることを示している。

沖縄防衛局の環境アセスやモニタリング調査、そして環境監視委員会の助言は、ジュゴンの保護には繋がっていない。逆に、防衛局が辺野古・大浦湾やその周辺からジュゴンを追い払い、辺野古の海草藻場の多くを破壊を許してしまったのが、アセスであり、モニタリング調査であり、環境監視等委員会のアドバイスだといえる。防衛局と環境監視等委員会の姿勢と能力は、繰り返し、厳格に、そして広く追求される必要がある。

ジュゴン情報のタイムリーな公開と共有を!
環境省との要請交渉で驚いたのは、沖縄県が報告書を発表するまで、沖縄県と環境省の間でジュゴンのフンに関する情報共有が行われていなかったことだ。沖縄県はジュゴンの報告書を年1回発行する体制をとっているため、この重要な情報は長い間公開されなかった。(環境省も年1回、ジュゴンの報告書を公開する体制である)。つまり、ジュゴンのフンの発見が、県と環境省による共同のジュゴン保護の取り組みに繋がってはいなかったのだ。

実は私が知る限り、沖縄県がジュゴンに関する重要な情報をタイムリーに公表し、共有することができなかったのは今回が2回目である。

2021年4月、上記のジュゴン絶滅論文のドラフトがScientific Reportsに投稿されたとき、私はIUCNの海牛類専門家グループ(SSG)に連絡し、論文のドラフトのレビューと対応を要請した。SSGは私の要請を緊急だと受け止め、IUCNとSSGの責任や役割、論文著者の学問の自由など、さまざまな問題とその関連性を慎重に検討した。そして前述のように、SSGは2021年5月に沖縄県に書簡を送付することを決定した。(SSGは、英語版のオリジナルとその日本語訳文の両方を送っている)。その書簡には、「この手紙の意図は、仮にこの論文が校閲を通過して出版されたとしても、沖縄のジュ ゴンが絶滅したとするその主張は全く信頼に値しないことをお知らせすることであります」と明言されている。

SSGは、この書簡を作成・送付することで、世界のジュゴンを保護するための専門家として役割とその姿勢を示してくれたといえる。 

しかし沖縄県は、2021年末に県庁自然保護課のホームページに書簡をアップロードするまで、数ヶ月間も書簡の存在を公表しなかった。また書簡をアップロードした際も、プレスリリースや広報は行わななかった。なぜこのような遅れがあったのか、県は書簡の重要性、そして書簡の存在を公にすることの重要性を認識していたのかどうかは未だに疑問である。実際、今日に至るまで、県は、書簡の意義やIUCNが沖縄のジュゴン、つまり世界の北限の最ジュゴンにどれだけ注目しているかを県民に説明できていない。 

辺野古新基地建設が進む中、沖縄本島沿岸に生存するジュゴンを救うためには、沖縄県の現在のやり方や姿勢を変える必要がある。データを収集・分析し、最終的な報告書を書くのに時間がかかることは理解できる。しかし、1年に1回報告書を出すだけでは、効果的な保護対策には繋がらない。最終的な年次報告書だけではなく、中間報告書を公開していく必要がある。それにより、効果的でタイムリーな対策に繋げることが可能になるし、市民がジュゴンの目撃情報やフンの採集に協力できるようになる。県は、ジュゴンの目視、食み跡、フンに関する情報収集を目的としたジュゴン情報ポータルサイトを作成しており、このポータルサイトの取り組みをもとに中間報告書の実現へと繋げてもらいたい。

沖縄県自然保護課のジュゴンポータルサイト

さらに言えば、沖縄県は、SSGや米国海洋哺乳類委員会、また米国国防総省など、海外の機関にもジュゴンに関する情報や意見をより積極的に求め、それを公開していく必要がある。これらの機関は、沖沖縄のジュゴンの状況を長年注視しており、科学的かつ法的な、役立つ情報を持っている。同時に県は、これらの機関に沖縄のジュゴンに関する独自の情報を積極的に提供し、この絶滅の危機に瀕した沖縄の文化的象徴であるジュゴンを保護するために協力を要請することが必要だ。また、沖縄県とこれらの機関への働きかけを、県民や市民社会に見えるようなかたちで行うことも大切だ。

沖縄のジュゴンの保護のためには、観察力と知識ある目と行動力を持った地域の人々が必要であるのと同様に、専門性と行動力を持った国際機関と沖縄県の連携も必要である。

(この文書はDeepLの翻訳に修正を加えたものです)

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